カメラの世界は一夫多妻制 – レンズ選びに悩んで「2つとも買っていらないほうは売ればいい」という思考は危険だという話

ここ1ヶ月ほど、毎日のようにSONYのフルサイズ対応Eマウント単焦点レンズのSEL55F18ZSEL50F14Zのことで悩んできました。

値段が比較的安くてコンパクトで軽いにも関わらず、解像度が素晴らしいレンズSEL55F18Z。

値段は高いうえに大きくて重たいけれど、極上のボケと階調感のある写真が撮れるSEL50F14Z。

いずれも人気の50mm付近という標準域の単焦点レンズということもあり、この2つのレンズのいずれかを購入しようかとお悩みになる方は多いと思います。私もそうでした。
ネットで色んな情報を集め、作例を穴が空くほど見つめ、そして出た結論が「よくわからない」。

そう、そうなんです。
結局のところ、スペック表や他人のレビュー、作例をいくら見たところでそのレンズに触れてみないことには、そのレンズの本質などわかるはずがありません。ある作例では解像度が高くみえても、ある作例ではイマイチに見える。写真というのはひとつとして同じものはなく、撮影された状況によっていくらでも印象が変わるものです。

となると、最終的にたどり着く結論はひとつ、「両方買っていらないほうは売ればいい」。
多少お金がかかっても自分に合うレンズを手に入れるためにはそれも必要なこと。自分に合わないレンズを使い続けるよりはよっぽどマシ。そう考えて両方買ってしまおうとするわけです。
そうして私はSEL55F18ZとSEL50F14Zの2つのレンズを購入しました。実売価格でSEL55F18Zが8万円くらい、SEL50F14Zが15万円くらいだったので総額で23万円くらいの買い物になりました。

お金はたくさん使っちゃったけど、これは一時の買い物にすぎず、これから不要なほうを売れば出費は戻ってくる。

恐ろしいことに当時の私はそんな考え方をしていました。
これが私にとってのレンズ沼の入り口になると当時のわたしはまったく考えもしませんでした。

比べれば比べるほどわからなくなる

SEL55F18ZとSEL50F14Z。

この2つのSONYフルサイズ対応Eマウント単焦点レンズを手に入れた私は、さっそく愛用のα7IIIで比較検証を行います。

SEL50F14Z vs SEL55F18Z!作例で画質の違いを比較検証してみました!

ちなみに、この比較検証に使っているα7IIIも先月購入したばかり。実売で20万円ちょっとだったので、この時点でレンズふたつと合わせて40万円以上使っていることになります。

ともかくそうこうして比較してみると、安くて軽くコンパクトなレンズであるSEL55F18Zのほうが私は好みな気がしました。軽快さと解像度の高い素晴らしい画質をともなったSEL55F18Zは、本当に良いレンズです。SEL55F18Zは、過去に一度所有し、そして手放してまた買い直したという経緯もあります。

Eマウントの神レンズSEL55F18Zのレビュー Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA

対して、SEL50F14Zは、値段は高いうえに大きくて重く、F値が小さいことによる暗所性能とボケぐらいしかいいところが見つかりません。撮影してきた画も「そんなに?」という感じです。
これは決まりだな、私の心はSEL55F18Zで決まりつつありました。

SEL50F14Zのレビュー SONY Planar T* FE 50mm F1.4 ZA

でもある時、気がついてしまったのです。
それは梅雨時期の花、紫陽花を撮影していたときの話です。
いつものようにSEL55F18ZとSEL50F14Z、両方で撮影してきた写真を見比べていると、むむむ?と思う写真を見つけました。
一見しただけでは気づきにくいのですが、それはなんともいえない深みをもった写真で、いつまでも見ていたい、見ていられる、そんな写真です。それはSEL50F14Zで撮影された写真でした。

そしてこの写真に気がついてから、これまで撮影した写真を見返してみたところ、SEL50F14Zで撮影された写真というのは、言葉にすることが難しい繊細な美しさというか滑らかさのようなものがあることに気がつきました。

結局のところ、私がSEL55F18Zのほうがよいと思っていたのは、自分の写真を見る目が違ったからなんです。SEL55F18Zの写真はわかりやすい写真といえます。今日、1枚だけ誰かに見せて評価をもらうなら、SEL55F18Zで撮影した写真を使うと思います。
けれどそうではなくて、写真展のように、複数の写真を見せて相手から評価をもらうならSEL50F14Zのほうを選びます。私が感じた2つのレンズの違いはそういうことでした。

こうなってくるともうダメです。
一長一短、そう考えるとどちらのレンズも手放すのが惜しくなりました。一方を選ぶということは、もう一方の利点を捨てること。
よほど自分の撮りたい写真のハッキリしたプロでもない限り、この選択を論理的に行うことは難しい。自分の撮りたい写真がまだよくわからず、自分の理屈をまだ持たぬ初心者にとっては致命的です。

もはや悩むだけ無駄、という状況になりました。
自分なりの正しさを判定する指針を持たぬ初心者は、悩んだところで的確な判断などくだせるはずがありません。ある時はSEL55F18Zが良い気がして、またあるときはSEL50F14Zが良い気がする、日々その繰り返しです。悩めば悩むほど、比較すればするほどわけがわからなくなり思考回路はついにショートしました。

そして買いました。フォクトレンダー NOKTON 40mm F1.2 Asphericalを。

NOKTON 40mm F1.2 Aspherical(E-mount)のレビュー フォクトレンダーの神レンズ

3本目のレンズ「フォクトレンダー NOKTON 40mm F1.2 Aspherical」

は?

誰もがそう思うことでしょう。なぜSEL55F18ZとSEL50F14Zで悩んでいた人間が、新しいレンズを買ってしまうのか。しかも同じような標準域の単焦点レンズを。これがレンズ沼に落ちた初心者の怖いところです。

SEL55F18ZとSEL50F14Zで悩みすぎた私は、いつしかこう思うようになりました。

「そもそもこの2つのレンズは私に合っていないのではないか?だから悩むのだ。それなら自分に合いそうな新しいレンズを買って、それと比較してみればいい。そしていらない2つは〜以下略」

おそろしい、あまりにもおそろしい思考です。しかしこれが現実に私の身に起こった出来事なのです。自分でこうして書いて振り返ってみると、当時の自分はあまりにも論理性を欠いた思考をしていることが今ならわかります。

ともかくそうして手に入れたフォクトレンダー NOKTON 40mm F1.2 Aspherical。
このレンズはマニュアルフォーカスのレンズですが、40mmという50mmよりは比較的広い画角と、そのコンパクトさがよいところです。オートフォーカスが優秀なα7IIIでマニュアルフォーカスレンズを使うのは矛盾感を感じなくもありませんが、開放1.2という明るさからくる独特なボケ味や絞ったときの精細感が素晴らしく、とてもいいレンズです。
フォクトレンダー NOKTON 40mm F1.2 Asphericalは私にとって、SEL55F18ZとSEL50F14Zの間を埋めるちょうど中間ぐらいのポジションに収まりました。そう、収まってしまったのです。

SEL55F18Z
SEL50F14Z
フォクトレンダー NOKTON 40mm F1.2 Aspherical

こうして3つの標準域単焦点レンズを手に入れた私。
比較してみるとわかりますが、レンズというのはどれも一長一短があるものです。そう考えると手放すのが惜しくなりますね。悩みますね。ものすごく悩みます。そうだ、私わかりました。多分、悩むのはまだ自分にピッタリ合ったレンズに出会ってないからですね。そう、新しいレンズを買って、比較して、いらない3本を売れば〜以下略。

そして4本目のレンズSEL85F18が私の手元にやってきました。

SEL85F18のレビューと作例 FE 85mm F1.8

まさかの4本目のレンズ「SEL85F18」

信じられませんよね。私も信じられません。

この1ヶ月の間に私は、

α7IIIボディ
SEL55F18Z
SEL50F14Z
フォクトレンダー NOKTON 40mm F1.2 Aspherical
SEL85F18

1つのカメラのボディと4本のレンズを買ったというわけです。こうなるともはや金額の計算などはしません。現実の直視を脳が拒否しだすのです。

ただ、今回は85mmというちょっとだけ画角の狭いレンズを選びました。さすがに同じ標準域のレンズで4本目を買うのは、論理性を欠いた状態であっても躊躇われたのだと思います。

結果、私にとってこれが大正解となりました。
85mmという画角は、私が撮りたい写真がよく撮れる画角でドンピシャで自分に合っていると感じます。皮肉なことにSEL85F18は、これまで購入したいずれのレンズより一番安いレンズです。

こうして私は自分にピッタリ合うレンズにめぐり合えました。じゃあ、これまで買ったレンズは売却しよう、というのはどうでしょうね。レンズというのは一長一短があるものです。そう考えると手放すのが惜しくなりますよね。悩みます。とても悩みます。そうだ、新しいレンズを〜〜〜〜〜〜さすがの私もここでようやく気がつき、この記事を書いているというわけです。

結果として私は、自分に合うレンズに「たまたま」めぐり合うことができました。
かといってこれまでの行動を肯定的にふりかえることはできません。今回は偶然、納得できるレンズにめぐりあえたので一時停止しているだけで、自分にはそういう一面があるのだということがよくわかりました。これからも注意して自分の行動を監視していかなければならないと思っています。レンズ沼などというのは、熱狂的なカメラファンだけが陥る遠い世界の話と思っていたことが間違いでした。これは誰にでも起こりうることです。そうでなければレンズ沼なる言葉がここまでカメラ業界に浸透することもなかったでしょう。

これまでのレンズもやはり手放すことはできません。どれも違った良さのあるレンズで、いまのところそれらのレンズを手放せるだけの理由が私にはないことがわかりました。長く所有していく中で「これは使ってないな」と思えたときにようやく手放すことができるようになるのでしょう。

結局のところ、カメラの世界というのは一夫多妻制なんです。ひとつのカメラにいくつものレンズをお嫁さんに迎えることができてしまいます。
明瞭活発で元気がよい嫁(SEL55F18Z)、ぽっちゃり体型だけど明るくて細かいところによく気がつく嫁(SEL50F14Z)、自分では何も決められず私に決めてもらいたがる甘えん坊な嫁(フォクトレンダー NOKTON 40mm F1.2 Aspherical)、狭い視野の持ち主だけど目の前にあるものをしっかり見つめる誠実さのある嫁(SEL85F18)。
一夫多妻が許され、また、常識とされている世界で、たったひとりの嫁だけを愛し続けることがあなたにできますか?

カメラの世界は一夫多妻制。
レンズがたくさんある状況をハーレムにするのもレンズ沼にしてしまうのもあなた次第。

レンズ選びは慎重に。