急成長を遂げている星野リゾートの星野社長が、経営判断の参考にした教科書とその活用法について紹介した本「星野リゾートの教科書」を読んでみました。
本の選び方
むしろ私が注目するのは、書棚に1冊ずつだけ置いてあるような本だ。こうした本は流行の波を乗り越えて、体系化された理論として生き残り、定石として一般的に認知されたことを示している。
星野社長は経営の参考にする本を選ぶときに「本屋さんの書棚に一冊ずつ置かれている本」に注目するそうです。
こういった時間の淘汰から逃れた本 = 名著の可能性が高い、という考え方はAmazonのレビューを参考に本を選ぶ私世代には新鮮です。
集中と選択
「どんなターゲットに向かって『集中』していくのかをまず明確に決める。そのうえで、『コスト』で優位に立つのか、ライバルとの『差別化』を徹底するのかを二者択一で選び、徹底していく」
何気ない一節ですが、私の中になかったif文に落とし込まれていたのでメモしました。
私が注目したいのが「、『コスト』で優位に立つのか、ライバルとの『差別化』を徹底するのかを二者択一で選び、徹底していく」という点。コストと差別化を二者択一という見方が私にはありませんでした。
これまでは、コストで優位に立つ=価格面での差別化、という見方をしていましたが、コストの優位性と、差別化は分離して考えるべきなのだな、と。
「差別化」というのはあくまで「サービスの内容」で行うものということなんですね。
製品ラインアップよりたったひとつの言葉を
企業は売り上げを増やそうとして、製品のラインアップを増やそうとすることが多い。しかし、ライズによると、「短期的に見ると、製品ラインの拡張は常に売り上げを増大させる」が、「長期的な効果は無残」で、結果として売り上げが大きく落ち込む。そして、「マーケティングにおける最も強力なコンセプトは、見込み客の心の中にただ1つの言葉を植えつけることである」と主張する。
これはスティーブ・ジョブズがAppleに復帰した際に製品ラインアップを極端に減らしたことでも有名な話ですね。
これが難しいのは「短期的に見ると、製品ラインの拡張は常に売り上げを増大させる」からなんですよね。きちんと未来図を描いた会社でもなければ視野が短期的になってしまうのは必然といえます。
良くいえば、目の前のユーザーを喜ばせたい、という気持ちから細分化したサービスやプランを発想して多様化してしまうんですよね。
この短期的な視野と長期的な視野を併せ持つことは容易ではありませんが、経営者なら心がけておきたいところです。
サービスに保証を
ハートの論文は、製造業で一般的な「保証」がサービス業にはほとんどないと指摘し、機械よりも不確かな人間が提供するサービスこそ「保証が重要」と力説している。
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アルツ磐梯はカレーの「おいしさ保証」に続いて、04年、スキー・スノーボードのスクールで「上達保証制度」を開始した。レッスン終了後、お客様が「あらかじめ約束したレベルに達しなかった」と感じた場合、受講料を全額返金するサービスである。 スクールの責任者である石内圭一ユニットディレクターは、インストラクター全員が「先生が生徒に教える」のでなく、「お客様に対してスクールというサービスを提供する」という意識を持つため、教え方のマニュアル作りやインストラクターの評価制度作りを進めた。1回のレッスン参加人数はかつて最大12人だったが、サービスを徹底するために4人まで減らした。
あ、なるほど。と納得のいくお話です。目に見えぬサービスにこそ「保証」の概念を、これが星野リゾートの急成長を支える考え方なのかな、と。
同じサービス業に従事するものとしてぜひ見習いたい考え方だと思いました。
ビジョン実現のための指標
経営ビジョンの実現にどれだけ近づいているかを測る具体的な尺度も定めた。「顧客満足度(お客様アンケートの結果から数値化)」「売上高経常利益率」「エコロジカルポイント(環境基準に関する達成度を示すデータ)」の3つである。
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お客様の満足度向上を追求すると、サービスの質を高めるためのコストが大きく膨らみかねない。しかし安定的に利益を出せるようにしなければ、事業を続けることは難しい。リゾート開発=環境破壊ということにならないために、エコロジカルポイントの達成も重視している。相反する課題をクリアしてこそ、「リゾート運営の達人」というわけである
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施設の課題を語るときには、経営ビジョンの達成目標として定めている3つの数字、すなわち「顧客満足度」「経常利益率」「エコロジカルポイント」の達成状況を確認することから始める。
ビジョンは言葉として掲げただけでは抽象的になってしまいがちなので、こうした「ビジョンの達成度合いを示す指標」を定めて管理する考え方も真似したいところです。
見るべき指標は、その企業の持つビジョンとビジネスにより異なると思いますが、「顧客満足度(お客様アンケートの結果から数値化)」「売上高経常利益率」の二点はどんなビジネスにおいても必要な指標だと思います。
個人的には、あとひとつ、その会社ならではのビジョンの達成を示す指標を用意すれば良いのではないかと感じました。
星野リゾートの場合は、環境破壊につながりがちなリゾート開発なので「エコロジカルポイント(環境基準に関する達成度を示すデータ)」という指標が使われているそうです。
お客さんを選ぶ
ブランチャードの理論がユニークなのは、お客様の要求が自分たちの目指している製品・サービスと合致しない場合、「要求を無視するべきだ」と断言している点である。
今、目の前にいるお客さんは、自分の会社にとって本当に「お客さん」と定義して良い存在なのか。最近、私もこんなふうに考えることがあります。
ベンチャー企業の企業活動において「試み」的に行われる活動は多いものです。そうした「試み」的に行われる宣伝・広報活動によって得られたお客さんは、その「試み」のお客さんではありますが、必ずしも企業にとってベストな存在であるとは限らず常に問い続けなければならないな、と。
これを問い続けずに目先のお客さんばかりに対応しようとすると、先述のように製品やサービスのラインアップを増やしてしまい短期的には成功するかもしれませんが、長期的には失敗してしまいます。
成功の秘訣 六十六翁 内村鑑三
一、自己に頼るべし、他人に頼るべからず。
一、本を固うすべし、然らば事業は自づから発展すべし。
一、急ぐべからず、自働車の如きも成るべく徐行すべし。
一、成功本位の米国主義に倣ふべからず。誠実本位の日本主義に則るべし。
一、濫費は罪悪なりと知るべし。
一、能く天の命に聴いて行ふべし。自から己が運命を作らんと欲すべからず。
一、雇人は兄弟と思ふべし。客人は家族として扱ふべし。
一、誠実に由りて得たる信用は最大の財産なりと知るべし。
一、清潔、整頓、堅実を主とすべし。
一、人もし全世界を得るとも其霊魂を失はば何の益あらんや。
人生の目的は金銭を得るに非ず。品性を完成するにあり。 以上
本書は、星野リゾートの星野社長が、過去に重要な決断をした際、にどんな本を参考にしてどう行動したかについて書かれた本です。
星野社長がその本を読んで得た知識を、実際の現場でどう活かして行動したかが具体的に書かれた「本から得た知識の使い方」的な本でした。
各章の終わりに「教科書のエッセンス」として参考にした本の要点がまとめて紹介されているところも、本をゆっくり読む時間のない人に嬉しいポイントです。
星野リゾートの急成長の秘密を知りたい方は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。