漫画と侮るなかれ。本書を読めば部下にどう指示すれば期待した行動をしてもらえるか、そして望ましい結果を引き出せるのかがわかります!
成果をあげるには行動を変えるようにうながす
「教える」というのは「相手から”望ましい行動”を引き出す行為」なのですから、注目すべきなのは「行動」です。「根性」や「熱意」といった、気持ち=「心」にばかりこだわっていては、いつまでたっても問題は解決しません。
日本では仕事を精神論的な捉え方をすることがヨシとされる時代が長かったせいか、未だに精神論で仕事をしてしまおうとする風潮が残っているように感じますが、残念ながら「気持ち」だけで良き成果を期待できる時代ではなくなってきました。
まして部下などの他人に対して「気持ち」を変えるように仕向けようとしても、本人が変わろうとしないかぎりは決してうまくいきません。
そこで本書では、「気持ち」ではなく具体的な「行動」の指示へと教え方を変えることで、成果を出す方法について紹介されています。
「教える」にはまず「聞く」習慣を身につけよう
ですから、部下に悩みやミスの情報をいち早く話してもらいたいなら、上司のあなたは”部下の話をしっかり聞く習慣”を身につけなければなりません。なぜ、上司に話してくれないのか? 答えは簡単。上司がしゃべりすぎてしまうからです。 「実は今日、取引先でこういうことが…」と途中まで聞くと、それをさえぎって「それは、こうすればいいんだ」と自分の経験をもとに話し始めてしまう。
上記についてドキッ!とした方は多いのではないでしょうか。
人は「教える」ということを「自分が話す」と捉えてしまいがちで、教える対象の話を満足にきこうとしないものなのです。
往々にして自分の部下というのは歳下だったり、自分より経験が浅いものなので、ついつい相手の話を軽んじて自分のことばかりを話してしまうのです。
でも、冷静に考えてみれば、キャッチボールの相手が今どんな状態にあるのか、受け取る姿勢はできているのかを把握せずにボールを投げるようなことをして良い結果がでるわけがありませんよね。
まずは相手の話を十分きいて状態の把握に努めたうえで離せば、教える側もより相手に届きやすい言葉選びや的確な指示ができるようになるのではないでしょうか。
分かった=理解した、ではない
実はわかっていないけれど、「わかりません」とは言いづらい、本人はわかったつもりになっているが、実は間違った理解をしている、わかったのか、わかっていないのか、本人がわかっていない…といったケースが多いのが現実です。 どんなに一生懸命教えたつもりでも、実際にはわかっていないのであれば、その指導や教育は失敗です。何かを教えたら、そのつど「本当に理解したのか?」「本当に身についたのか?」確認することを習慣にしましょう。
これについては私の教育経験でも似たことがありました。
その人はすごく頭がよくて聡明な人で気配りや配慮に長けた人だったのですが、その性格が災いし、その場で「分からない」ということが、講師の私の株を下げてしまうと捉えてしまうような人だったんです。そんなことをするぐらいであれば家に帰って自分で調べよう、と考えてしまうんですね。そして自分で誤った知識を仕入れてしまうわけです。
配慮や気配りができることは美徳と思いますが、時と場合を間違えると逆効果です。このケースの場合は実際には相手が分かっていないのに、私自身は「分かった」という言葉を信じてしまったのです。教育失敗です。
著者のいうように、単に相手の「分かった」を盲目的に信用するのではなく、「本当に理解したのか?」「本当に身についたのか?」を確認する癖をつけるようにしたいですね。
教えたことの確認法
教えた「知識」がどれだけ伝わったかを確認する、もっともシンプルな方法。始める前に「最後に復唱してもらうので、しっかり聞いておくように」と言っておけば、より集中して聞いてくれることでしょう。
あ、なるほど、と思えたのでメモ。確かにたったこのひと言で相手の話をきく姿勢も変わるでしょうし、教えた内容が本当に分かったのか、について確認することができるようになりますね。
教えた内容が「知識」ではなく「技術」だった場合は、「後からやってもらいますからね」といえば良いですね。
ユースケースを考えさせる
重要なのは、ただ漠然とイメージさせるのではなく”成功パターン”と”失敗パターン”に着目させること。 「今日教えたことをキミの仕事で生かす場合、どうすれば成功すると思う?」「どんなふうに使うと、失敗すると思う?」 両方について、そのポイントと理由を説明させてください。こうして”成功のイメージ”と”やってはいけないこと”をはっきり言葉にさせることで、「わかる」から「できる」への移行が、何もしないときよりも格段にスムーズになるはずです。
教えた知識や技術を、具体的にどんなところで使用すると良いか、どんなところでは使えなさそうなのか、を考えてもらうのも知識や技術の定着に寄与しますね。
知識や技術はただ知っているだけでは役に立ちませんから、積極的にユースケースを想定させるなどして、身につきやすくなるように仕向けていくと良さそうです。
行動の定義に役立つMORSの法則
行動を具体的に言語化するとき、ぜひ参考にしていただきたいのが、行動分析学の世界で「行動」を定義するときに用いられている「MORSの法則(具体性の法則)」。MORSの法則は次の4つの条件から成り立っています。
・Measured 計測できる(=数値化できるという意味)
・Observable 観察できる(=誰が見ても、どんな行動をしているのかわかる)
・Reliable 信頼できる(=どんな人が見ても、それが同じ行動だと認識できる)
・Specific 明確化されている(=何をどうするかが明確になっている)
行動心理学、行動分析学などの本を読んでいるといくつか出てくる法則のひとつで、真新しいモノでもないのですが、やはり行動定義においては便利な考え方だと思うのでメモしておきます。
このテの法則は色々ありますが、MeasureとSpecificだけはいつも共通しますよね。そぎ落とせばMeasure(数値化して計測可能)とSpecific(具体化して行動を明確にする)だけのMSの法則でも良さそうですね。
本書は行動科学を使ってできる人が育つ!教える技術のコミカライズなのですが、要点は本書で十分抑えられるので、まだ原著を読んだことのない方は読みやすいコチラから読まれることをお勧めします。
ただ、昨今のビジネス書のコミカライズ本にありがちな「漫画でわかる」と、うたいつつも漫画成分が1/3ぐらいというところは他書と変わりありません。「漫画も入ってる」ぐらいが正確な表現だと思います。
研修や講習などの教育現場で使う本、というよりはビジネスの現場でのOJTに役立つ本、という感じなのでその点には注意が必要です。
「教え方」を教わることがそもそもないので、教育に漠然としたものを感じている人は多いと思いますが、そんな方にこそ役立つ本だと思いますのでぜひ読んでみてください。