ショッキングピンクが印象的な神田昌典さんの「ピンク本」を読んでみました。
初版が1999年ということなのでもう15年くらい前に発行された本ということになりますが、一部に使い古された感があれど、根本的な理論は色褪せず今日のビジネスに活かせそうな気がしました。
「エモーショナル マーケティング」と神田さんが名づけた本書で紹介されているマーケティング手法は、見込み客獲得のための営業活動における「感情」を重視する手法なのですが、それゆえに本書中で事例をただ漠然と眺めただけでは「この人の場合はそうだっただけじゃないの?」と思えた部分もあります。
しかし、今日まで名ばかりではありますがマーケティング活動を続けてきた私にとっては、「何が失敗で、何が原因だったのか」がようやく明確になった気がした本でした。
そういった意味では、まったくの営業活動経験ゼロで読むよりも、なんらかのそういった経験がある方が読んだ方が効果の大きい本なのかもしれません。
ニーズだけではだめ!感情のともなったウォンツを発生させろ!
これは本書後半に出てくる内容なのですが、私的には衝撃が走った一節だったので最初にメモしておくことにしました。
私はこの点についてずっと勘違いしてきたことを思い知らされました。
「私の提供するサービスは、利用ユーザーの向上に役立ち、社会をさらに豊かにし、我々に利益が発生する、そんな三方良しのサービスだ!」
今もそう思って活動しているのですが、まったく結果がふるわなかったんです。
人に訊けば「素晴らしい、ぜひ頑張ってください」的なことはいわれます。活動に賛同してくれます。でも、まったく売れない。
みんな私達が説明するビジョン、そして必要性に賛同してくれる。けれど結果が伴わない。
ずっと悩んでいたのですが、本書を読んでそれが理解できました。
みんな、我々の未来に必要という「ニーズ」は理解できた。
けれどまったく欲しくない。そこに感情のともなった「ウォンツ」がまったく無かったんですね。
本書中の例を借りると、「歯医者の場合、歯医者に定期健診に行かなければならないという必要性(ニーズ)はある。しかし、定期検診に行きたいという欲求(ウォンツ)はない。」
まさにこれと同じことだったんです。
誰もが歯医者の定期健診の必要性について理解できますが、積極的に行こうという気にはなりませんよね。
この「積極的に行こうという気」、欲求(ウォンツ)を起こさせる努力を今日まで怠っていた、いや、むしろそれが必要だということが私はまったくわかっていなかったんですね。
これまでは必要性(ニーズ)を理屈で説明してわかってもらえていた気になっていましたが、これからは欲求(ウォンツ)であるヒトの感情を捉えて営業活動をしていきたいと思います。
人間の感情を考えてビジネスをしよう!
前項とかぶるところはありますが、大事なことでもあるのでメモを残しておきます。
本書中で神田さんは「ほとんどの会社は、人間の感情を考えていないで、ビジネスをしている。だから本来得られるべき売上や効率が得られないのです。」と述べています。
ここでは「なぜ多くの企業は人間の感情を無視したままビジネスをしてしまうのか?」について考察していきたいと思います。
私が察するに単純に一言でいえば「面倒くさい」んだと思います。
人間は自分のことですら理解するのが難しいというのに、自分以外の人間の感情を考えるというのは至難のわざです。
そこに定性的で明確な「正解、不正解」というものがありません。あるのは「どこまでお客さんの感情によりそえるか」という定量的にして曖昧なものです。
すると人は「本などからえたマーケティング理論、これまでの活動で得た経験則」などを活用することで思考停止に陥ろうとするわけです。
そのほうが曖昧な人間の感情を一生懸命考えるよりも遥かに楽ですからね。
例え、お客さんの感情を考えることで利益が上がることを本書で理解したとしても実践は難しいのかもしれません。それほどに人は面倒くさがりなのではないでしょうか。
すなわち、人は「人間の感情を考えていないでビジネスをしている」のではなく「もっと楽にビジネスをしたい」という気持ちが勝っているのではないかというのが私なりの仮説です。
ここに矛盾があるんです。
そして本書自体もタイトルなどから一見すると「もっと楽にビジネスをしたい」という気持ちに寄りそうモノに見えて、実は「人の感情を考える」という一番難しいことをやれ、という矛盾を抱えているのではないかと(笑)。
この辺は、私が神田さんがコンサルタントというよりは、物書きとして才能のある方なのだと思うところではありますが。
つまり、ここについてはブレストなりなんなりで必死になって考えるしかないのです。
これまで得た経験やデータ、必要であればアンケートや聞き取り調査でも何でもやってお客さんの感情を少しでも理解できるように努め、お客さんに欲求(ウォンツ)を発生させるキッカケを掴まなければなりませんね。
ここは頭に汗をかく作業がどうしても必要になってくるのではないでしょうか。
安く売るのではなく価値をあげよう!
これも前述の内容とかぶる指摘が本書中にあります。
「25%OFFを40%OFFとするのは数字を書き換えるだけだから頭をつかわないですむ。しかし儲からない。そして消耗戦に突入する」
そうなのです、やはり人は「楽をしたい」と思ってしまう生き物なのです。
個人差はある程度認めたうえでいいますが、「崇高なるビジョンや高尚な意義、ゆるぎない信念」といったものに裏付けられたビジネスをしていたとしても、常にモチベーションを高く維持し続けられるほど我々は機械になれず、悲しいぐらいに人間なのです。
本書中に「人はすぐ手を動かしたがって、頭を動かそうとしない」的なことが書かれていました。
体を使って行動することは活動の実感があるのでわかりやすいのですが、頭を使うことはその成果が結果となるまではわかりにくいのでおっくうになってしまうんですね。
ではどうやって「楽して頭を使うほうを選ぶか」ということなのですが、さすがに本書でもそれについては触れられていません(笑)。
本書とは少し離れますが、「夢中になれること、好きなこと、楽しいこと」であれば頼まれなくても頭を使うようになるといった記述の本はいくつか読んだことがあります。
私も心当たりはありますが、つまりは「人の感情を頭を使って考える、には、まずは自分の感情(夢中、好き、楽しい)を考えてから」ということになりますかね。
お客さんの感情だけでなく、自分の感情にも目を向ける必要がある、ということでそろそろ着地します。
相手が「欲しい」と思ってから説明する
「人間は、理屈では買わない。感情で買う。そして、その後に、理屈で正当化する。」
みなさんも心当たりあるのではないでしょうか?私もドキッとするほどによくありますね。
ところが自分がそうであるというのに、我々はお客さんにはそのプロセスで買わせてあげずに、まずは理屈で説明して買わせようとしてしまいがちです。
本書中に「最初に理屈で売り込まれると例え欲しいものだったとしても「売り込まれまい!」とする防衛本能が働いて営業マンは害虫であるが、お客さんが「欲しい」とおもってから説明されると営業マンは肯定してくれる天使にみえる」とありますが、なんて的確な表現なのかと(笑)。
こういった事態を引き起こしてしまいがちなモノとしてマニュアルや慣習があるのかもしれません。
既存のマニュアルや慣習がある場合は、それらがしっかりとお客さんの感情に基づいて作られているか、自分達の都合を優先して書かれていないかを今一度確認してみる必要がありそうですね。
コンマ数秒の感情的判断に対応しよう!
「(チラシなどの広告を見て)お客の頭のなかで、こんな質問をしている。私はこの会社に家を建ててもらいたいかどうか」
正直なところ、最初にこの一文を見た時には違和感がありました。これはつまり「デザイン」の勝負ということになってしまうのではないかと。
しかし、これは俗にいうところのデザイン会社などの絵的なデザインではなく、設計的な意味での「デザイン」ということがわかりました。
絵的に必ずしも素晴らしい必要はなく、相手に「目的の感情」を抱かせるデザインであれば良いのです。目的の感情を抱かせるデザインというとまだ語弊がありそうですが。
これは人間の瞬間認識能力の素晴らしさを語るエピソードでもあるのかもしれません。
実際、人はたったコンマ数秒のうちに実に様々な情報を読み取ってしまうのでしょう。
それは脳内で言語化されずに「空気感、雰囲気」のような抽象的な捉え方かもしれませんが、自らに有用かどうかを瞬時に判断する能力は確かにあるのだと思います。
自分が「欲しいもの」の情報というのはなぜか目につくのはそういったことなのでしょう。
つまりしっかりと相手の感情にうったえる広告が作れれば、おのずとそれがデザインに現れコンマ数秒の感情的判断に対応できるようになるのではないでしょうか。
儲かる広告と儲からない(儲ける目的でない)広告があることを認識しよう!
これはちょっと目から鱗的なことがあったのでメモしておきます。
我々が本や雑誌で日常的に目にする、何も考えないで「広告」と捉えてしまっているものは実は「儲ける目的でない」広告だと神田さんはいいます。
そういった広告は企業が長い目での効果や社員の福利厚生を考えた「イメージ広告」であり、我々のやるべき「儲かる広告」、もっというと「儲けるための広告」とは別のもので混同してはいけない、という一節には納得。
正直、これまでは見慣れた雑誌などに掲載された「広告」と自分達の出す広告は同じモノという認識でしたが、確かに認識を改めるべきと思いました。
さらに本音をいえば、イメージ広告などのほうがイメージというだけあってカッコイイので作り手としてはモチベーションが上がるというのも盲目的にさせていた要因です・・・。
広告にはオファーを入れて効果を計測しよう!
前項でいうところの「儲けるための広告(レスポンス広告)」には必ずオファーをいれる必要があると神田さんはいいます。
それは「無料サンプル」や「無料レポート進呈」、「1000円お試しキット」のようなものが考えられるそうです。
このオファーがあることにより具体的に広告の成果を計測することが可能となり、より良い広告の作成に役立っていくということです。
基本的なことですが、これまでは新聞広告であろうとHPであろうと広告媒体を問わずに電話ください、的なことばかりだったので今後はしっかりオファーを入れていこうかと思います。
「お客さん」がいることを確認しよう!
ものすごい根本的なことですが、これも希望的観測で見落としがちなのでメモしておくことにします。
「お客がいれば、ビジネスは立ち上がる。命がなくても、商品がなくても、人がいなくてもなんとかなる。ところが、この順番を逆にしてしまうと、全く立ち上がらない。多くの会社が失敗するのは、この順番が逆だからだ」
神田さんは自らの窮地に立たされた経験でこの真理を発見したそうです。
つまり、何もなくても「何かを欲しがっているお客さん」さえいれば、そこからビジネスを構築することは可能なのですが、多くの人は希望的観測から「売りたい商品」を仕入れて売ろうとしてしまうから失敗する、ということですね。
これは誰でもわかっていることだと思うんです。
ところが、気がつくといつも忘れてしまうんですよね。お客さんという「人」を見ずに「商品」を見てビジネスを進行してしまっている。
定期的にこういった部分は戒めなければならないと思います。
お客さんを導く設計図(プロセス)を考えよう!
「一度ドアを叩いてもらったなら、お客が、自発的に階段を一歩一歩進んで、あなたの商品を購入する仕組みを作るのである」
購買心理に沿った階段式の設計図を作ることでお客さんからあなたの商品を買いに来るような行動を起こさせることが可能だと神田さんはいいます。
お客さんが自分でドアを開けて商品を購入するまでの具体的なプロセスを、お客さんの感情をふまえつつ作ることで簡単に商品を売ることができるそうです。
似たような記述は色々な本で見かけましたが、実践したことは無かったですね。知識は得ても実践していないものが多いことに気付かされます・・・。
まずは、「商品を売ることではなく、興味のある人を集めること」を徹底することだそうです。
この時点では前述のように売り込みをするのではなく、まずはその内容に反応することができる人=つまり興味のある人、を集めるわけですね。
次に情報提供。お客さんに十分な情報を提供することが大事で、その過程では自らを「営業マン」ではなく「専門家」として認識してもらうことが大切といいます。
「専門家からのアドバイス」であれば人は受け入れてくれますが、やはり「営業マンの売り込み」では誰も受け入れる気にはならないんですよね。
売り込むのではなく、どうやってお客さんの感情を味方につけることができるのか?それを考える必要があります。
長文になってしまったので重複する部分があるかもしれません。
神田さんは本書の「エモーショナル マーケティング」について「必要なことは頭を働かせることだけ。経費は一切増やさない。また労働時間が増えることもない。広告が勝手に仕事をして、何倍もの電話を鳴らしてくれるのである」といいます。
繰り返しになってしまいますが、これは決して楽して簡単である、という意味ではなく、人が最も苦手とする「頭を使う」ことが必要になるということでもありますね。
ただ、だからといって「やる、やらない」という話ではなく、頭を使ってお客さんの感情に寄り沿わなければ淘汰されるという厳しい話です。
誰でも簡単に楽にやれる、という印象は神田さんの物書きセンスが我々に与えた「感情」であり、真実は厳しいものであるということをしっかり認識した上で実践できれば効果のある手法と思います。
Kindleで300円くらい(2014年12月現在)で気軽に読めますのでぜひ一読されてみてください。