小さな組織であることの素晴らしさに気づく本 – 小さなチーム、大きな仕事 37シグナルズ成功の法則

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この本は久しぶりのアタリ本でした。

37シグナルズというアメリカの小さな会社が、会社規模に関わらず世界中に300万人以上に利用されるサービスを運営していける秘密が書かれています。

これまでの「企業とは拡大して然るべし」という考え方とは反し、今日ではビジネスで顧客に価値を与え続けるには、大きくある必要や多くを所有する必要がないことについて自身の経験談をもとに語られており、目からウロコがボロボロとこぼれました。

計画は予想にすぎない

あなたは臨機応変に振る舞わなければならない。やってくるチャンスをつかまえられなければならない。ときには「今からこの方針でいこう。このほうが今の状況に合っている」と言う必要がある。

計画の危険性についての一節で、刻々と変化する現状に対応するには長期計画は不要、もしいうのであれば「予想」にすべきと著者は述べています。

良くも悪くも「計画」という言葉には人を現状から眼を背けてさせてしまう力が働いてしまうというのは私にも経験があります。

見通しがないのは問題だと思いますが、臨機応変な朝令暮改的な運営が現代的といえるのかもしれません。

今日のスケールメリットとは「小ささ」なのかもしれない

小さいことは通過点ではない。小さいことは、目的地でもあるのだ。

大企業は身軽で柔軟であることを夢見ていることに気づいているだろうか?

これは拡大こそがヨシとされてきたこれまでの企業の在り方と真逆の考え方でしたが、身にしみました。

確かに上記の「計画」についてとリンクしますが、現代というのは常に状況が変化し、またそのスピードも素早いので小さな企業のほうがビジネスにフィットしやすい。

かつては大きければ大きいほど良い「スケールメリット」の時代であり大企業化を目指すべきだったのかもしれませんが、今日ではスケールメリットという言葉はむしろ「小ささ」に向けて述べられるべきなのだと気づきました。

「小さいことを目指す」

これを心がけて企業運営していきたいものです。

「制約」という武器

少なければ少ないほどよい。

制約は見方を変えれば武器である。資源が制限されると、それでなんとかしなければならなくなる。

そこには無駄の余地はなく、創造性が求められるのだ。

これまで制約があることを嘆いてばかりでしたが、たしかに制約があるからこそ革新が起こるのかもしれません。

続く文章で囚人が石鹸やスプーンで作った武器で脱獄してしまうことや、作家が創造力を発揮するためにあえて制約を課すことを例に、制約こそ創造性をかきたててくれるモノであると語ります。

しばしばベンチャー企業から革新的な製品が飛び出すのはこういう原理なのでしょうね。

一度にサービスに携わる人間は、一人、もしくは二人だけにしているのだ。

そして、つねにサービスの機能は最小限にとどめている。

このように自身に制約を課すことで、あいまいな形のサービスを生み出さないようにしているのだ。

以前より資源もスタッフも増えても34シグナルズではこれを心がけているそうです。

たしかに制約がないとあいまいなカタチの増えてしまうというのは納得のできるところ。

使いもしない機能だらけの日本のテレビのリモコンが悪しき例なのではないかと・・・。

芯の部分から考える

たとえば、ホットドッグの屋台をはじめるなら、香辛料、カート、名前、デコレーションと、いろいろ心配することがあるだろう。

しかし、まずいちばんに考えるべきことはホットドッグだろう。ホットドッグこそが芯の部分。他の部分は後で考えればいい。

これはホームページ制作で例えるとわかりやすくて、大抵はHP制作をはじめるときに「トップページ」を作ってしまうんです。

しかし、実はホームページにおけるトップページというのはコンテンツではなくインデックスページなので実は「一番最後」に作るのが正しいんです。

最初に取り組むべきは核たるサービスや製品の個別ページなんですね。

でも、大抵は綺麗で納得のいくメニューを並べたトップページの設計から入ってしまい、そのつじつま合わせ的にコンテンツを作らなければならなくなります。

結果、不要物に溢れ一番大事なモノを見てもらえないホームページの完成となってしまうわけです。

問題は通常、単純で平凡に解決できる。

多くの人は複雑な解決策によって問題が解決されることに快感を覚える。

頭を使うことに酔うことさえできる。

次には、それが良案であるか否かはそっちのけで、同じ切迫感をもたらす別の大難問を探し始める。

これは心当たりがありますし戒めておきたいところです。

問題を解決することよりも、問題を「どうやって」解決するかに必死になってしまうケースですね。

競合相手に勝つために小さくあること

競合相手を打ち負かすには、何事も相手よりも「少なく」しかないのだ。

簡単な問題を解決して、競合相手には危険で難しくて扱いにくい問題を残す。

ひとつ上を行くかわりに、ひとつ下回るようにしてみよう。

これも目からウロコのポイント。

通常、ビジネスをやっていると競合相手より先んじようと様々な機能やサービスを付加してしまいがちです。付加価値という言葉も字面的にはそれを連想させるのでよろしくない。

しかし、自分達は簡単な問題解決に集中することで、あえて競合に面倒くさい部分をやらせてしまうという発想は色んな意味での差別化として素晴らしい!

これこそ競争優位性の築き方として妥当な手法であるのだと思います。

あなたの製品やサービスがより少ないことしかできないからといって恥じてはいけない。

それを強調しよう。それを誇りにしよう。

競合相手が多様な機能リストを売りにするように、それを積極的に売り込もう。

我々が、できない、やれない、と思っていることが実は誰かにとって価値になるかもしれないということを覚えておきたいものです。

不完全の美しさを知る

欠点を見せることを恐れてはいけない。不完全さはリアルであり、人はリアルなものに反応するのだ。

だから、僕たちはいつまでも変わらないプラスチックの花より、しおれてしまう本物の花がすきなのだ。

これも心当たりのあるところです。

自分達の見すぼらしさを嘆き、外界に向けて発信する情報で精一杯の虚勢をはってしまうんですね。

ただ、実状に見合わぬ情報によってもたらされた問い合わせなどに対応することは難しく、結果、自分達のタメにならないのです。

とはいっても、そういった不完全な部分を見せるのがなかなかできないのは理解できます。しか、著者は私たちの思うより日本人的であったのです(笑)。

不完全の美しさ。

日本の「ワビサビ」のエッセンスでもある。

ワビサビの価値は、見た目の美しさを超えた特徴と個性にある。

物事の中にあるひびや傷も否定されるものではないと考える。

それはまたシンプルさでもある。

日本のワビサビについてこんなカタチで学ばせてもらうことになるとは思っていませんでした^^;

「物事の中にあるひびや傷も否定されるものではないと考える」

私はこれまで表面的な美しさの追求ばかりしていて、こういったモノの見方をしたことがありませんでした。

しかしそれがワビサビであり、真の意味での個性なんですよね。

「決定」は一生モノではない!

「もしかしたら」、「これが起こったとしたら」、「この場合のためのプランも考えなくては」

まだ起こっていない問題を作ってはいけない。現実に問題になってから考えれば良いことだ。

多くの「もしも」は起こらない。今日の決定は永遠ではない。

未来を先取りした決断をしようとしてしまうことは誰しも経験があると思います。

しかし、実際に未来に到達してみるまでその決断が正しかったかどうかの評価は誰にもできません。

それならば、今日に最適と思われる決定にしておけばいい、変わってきたらその時にまた決定すればいい。

日本の組織では朝令暮改が疎まれる傾向にありますが、実は朝令暮改は刻々と変化する現状に対応しているということでもあります。

「未来」に焦点をおくのではなく、「今日」に焦点をおくべきですね。


長く書き続けてしまいましたが、この本は「中小企業経営者」や個人事業者などの経験がある人は特に染みる本だと思います。

私もこれまで、無いことや持たざることを嘆き問題視していましたが、この本を読んでいかに自分達が優れた環境にいるかに気づけました。嘆くどころか喜ぶべき環境下にあったんです。

勇気のもらえる本です。ぜひ一読してみてください。