このハサミは立ちます。
直立します。
と、いわれてもポカーンですよね。
普通、ハサミは立ちません。それが常識的な理解だと思います。
ところが、このハサミは本当に立つんです。「裁ちバサミ」ならぬ「立ちバサミ」。もうわけがわかりませんね。
このオシャレでカッコいいハサミが立つ理由。
いや、立たなければならなかった理由。
それはユーザーの使いやすさを極限まで追求したゆえの必然でした。
HMM シザーズセット
今回ご紹介するハサミは「HMM シザーズセット」というハサミ。
最大の特徴は冒頭でも述べたように「直立する」ことです。
ハサミと一緒に付属してくるベース。ここに溝が………ではありません。普通、直立するというと、ペン立てのようなものを想像すると思います。
しかし、HMM シザーズセットは「磁力」でハサミを立てるんです。
これ、事実を正確にそのまま伝えているのですが、きっと伝わっていませんよね。これに似た経験を過去にお持ちの方は相当めずらしいと思います。
なので動画を用意しました。
おわかりいただけるでしょうか。ベースの真ん中に黒いポチがあって、そこの部分にハサミが磁力でくっついて直立します。磁力はかなり強いので、ベースからハサミが倒れたりすることはありません。接着面がほんのわずかなのに、すさまじい磁力で驚かされます。
ベースには両面テープが付属してくるので、ハサミを持ち上げたときに一緒にベースまで持ち上げてしまう心配はありません。
でも不思議ですよね。なぜハサミを立たせたのか。
単純に考えれば「見た目」が理由として思いつきます。「立つハサミ」なんて珍しいですから、それだけでも部屋を彩るインテリアアイテムとして映えます。贈り物などにも喜ばれそうですね。
しかし、察するにハサミを立たせた理由はそれだけではないようです。真の理由は、インテリアアイテムとして部屋の目につくところに置かれた「先」にあるようです。
このハサミは通常のハサミとしての機能のほかに「ペーパーナイフ」の機能もあります。
持ち手の部分に備えられた部分がそう。この小さなポッチの部分で紙を切ることができます。郵便物の開封や、ダンボールの梱包に使われているガムテープを切るのに重宝します。
ネット通販が隆盛を極める昨今、郵便物をはじめとする荷物は毎日のように届きます。となれば、開封作業も毎日の作業となるのは必然。
そんなとき「あれ、ハサミはどこに行ったっけ?」では困ります。毎日の作業に必要なアイテムが見つからない。さあ、探しモノの旅のはじまりです。引き出し、押し入れ、探したけれど見つからないと歌った井上陽水。ハサミが見つかるまでいったいどのくらいの時間がかかることでしょう。
そんなとき「立つハサミ」として置き場所が指定されているこのハサミは優秀です。まさかこんなに素敵なお立ち台があるというのに、ハサミを使ったあとでベースに戻さない人もいないでしょう。必ずここに戻してインテリアアイテムとしての機能を回復するはずです。そしてインテリアアイテムとして目につくところにあれば、いざ使おうとしたときの「どこいったっけ?」は発生しません。
つまりハサミを立たせた理由は「ハサミを探す無駄な時間の消滅」に他ならないというわけです。
もう一点、ハサミを立たせた理由らしきものに気がつきました。
おそらくこのデザインは「昨今のデスク事情」を反映しているのです。
先述の「探しモノの時間を減らす」という理由だと、「机の上のペン立てに入れておけばいい」ということにもなります。目につくところに置いておく、指定位置を確保しておくということであればそれでも問題ありません。
しかし、パソコンの登場によりデスクワークから手書きが失われてしまった昨今、デスク上にそもそもペン立てがないのです。手書きの必要がない以上、日々でペンを使う機会はほぼありません。わたしが最後にペンを使ったのは………思い出せません。手書きを最後にしたのはいつでしょうか。
そういうことです。つまりペンを使う機会が減少したので、ペン立ても同時にデスク上から姿を消した。けれどハサミを使う機会は以前と変わらず、いや、ネット通販の隆盛でむしろ過去より増えている。となれば、ハサミはやはりペン立てのような場所に置いておきたい。けれどそもそもペン立てがない……ならば! ペンを立たせればいいじゃないか! ということです。パンがなければケーキを食べればいいじゃない。ペンがなければハサミを立てればいいのです。やった、ハサミが立った! 喜ぶハイジの顔が見えました。