温泉につかる歴史上の偉人たち。
これが由緒あるお寺の本堂に描かれた画であるということを、あなたは信じられるでしょうか。
国上寺 イケメン官能絵巻
この画があるのは、新潟県燕市国上山にある国上寺。
国上寺は新潟でもっとも古いお寺で、頼朝に追われた源義経が落ちのびる際に身を隠したり、越後の戦国武将 上杉謙信が戦勝祈願を行ったとされるお寺です。
イケメン官能絵巻は、若者にお寺に興味をもってもらおうと始めた取り組み。
国上寺の本堂壁面に、イケメン仏画アーティストの木村了子さんが官能的な画を施すことで、若者にお寺に足を運んでもらいSNSでの拡散を狙います。
実際に本堂の画を目のあたりにすると、予想をはるかに超える衝撃を受けます。
お寺
半裸のイケメン
普段は関連付けて意識することのない両者が並ぶ違和感に、思わず笑みがこぼれます。
画には5名の偉人たちが描かれています。
上杉謙信、酒呑童子、源義経、武蔵坊弁慶、良寛。
いずれも国上寺にゆかりのある偉人たちです。
東側の壁面には、風水で東に飾ると縁起がよいとされる龍と偉人たちが描かれています。
源義経と上杉謙信が時代を超えて剣を交える姿は、ここでしか見ることができません。
本堂の裏、北側の壁面は、露天風呂につかる偉人たちが描かれています。
新潟は温泉の多いところなので、きっと偉人たちも温泉につかったのではないか、と作者の木村さんは想像されたそうです。
西側の壁面には、国上寺にある弘法大師ゆかりの巨木「五鈷杵かけの松」にちなんだ作品が描かれています。
本堂の正面、南側には国上寺が祀る阿弥陀如来と、時を超えて降臨した5名の偉人が描かれています。
すべての始まりの瞬間、を意識した作品だそうです。
お寺とイケメン画。
衝撃的な体験でした。
そして体験以上の感動を、この取り組みの背景におぼえました。
国上寺がこんな思い切った取り組みができた理由。
それは、現代を生きる若者たちへの敬意があるからに他なりません。
国上寺は越後一の古刹をうたうほど古く歴史あるお寺です。
建立は709年。なんと飛鳥時代から続くお寺です。「奈良の大仏」で知られる東大寺より古い、というとわかりやすいでしょうか。
源義経や上杉謙信など歴史上の人物のゆかりも多く、他のお寺に比べたら話題性があります。
千年を超える歴史と、偉人たちのゆかり。
これが国上寺の特徴であり、強みです。
となると通常であれば、その強みを人集めに活用するのは定石です。
「飛鳥時代から続く〜」
「源義経ゆかりの〜」
「上杉謙信ゆかりの〜」
こうなります。
強みを前面に打ち出して宣伝することでしょう。
歴史好きな人が国上寺を訪れる理由としてはこれで十分です。
しかし国上寺は、定石に従わず「イケメン官能画」という大胆な取り組みを選びます。
若者にお寺に来て欲しい。
そのためにはどうしたらいいか。
若者の寺離れに危機感を抱いた国上寺は、この問題に真摯に向き合いました。
私たちはこの真摯さを見習わなくてはなりません。
国上寺は、自分たち本位の強みを若者に押し付けず、若者の目線や文脈に合わせてお寺をアピールすることを選びました。
若者たちの文化や価値観を知り、考察を深める作業を真摯に繰り返されたのでしょう。
結果、若者たちにわざわざお寺に足を運んでもらうためには、生半可な方法では難しい、大胆な取り組みでなければならない、と結論づけられたのです。
千年を超える歴史や、偉人たちのゆかりといった強みを持ちつつ、さらに檀家という寺を支える存在がありながら、こんな大胆な取り組みを選ぶには勇気が必要です。動画内で住職もおっしゃるように、賛否両論あることは想像に難しくありません。手厳しい批判にさらされることもあるでしょう。
それでも国上寺は、若者たちにお寺に来てもらうことを優先しました。
自らが批判されるリスクを抱えてでも、若者たちに目を向けてもらえそうな方法を選ぶ。国上寺が心から若者たちに敬意を払っているからこそ、こんな大胆な取り組みを行うことができたのです。
相手に選んでもらうためには、相手に合わせて自らが変わる勇気を持たなければならない。
真に相手に敬意を払うのであれば、その勇気を持てるはず。
本当のイケメンは、他者への敬意を忘れない国上寺の人たちです。