火の鳥が飛ぶ。
そうきいて「それはすごい!」と応えられる純粋さを失ったのはいつの頃でしょう。
新潟県長岡市(旧越路町)にある宝徳山稲荷大社(寳徳山稲荷大社)。
この神社で毎年11月2日から3日かけて催される「神幸祭(よまつり)」は、日付が変わる頃に「火の鳥」が飛ぶことで有名です。
昨年、知人から神幸祭に行ってきた話を聞き、はじめて「火の鳥」の存在について知りました。
正直なところ、その時はまったく信じてませんでした。
火の鳥なんてのは、ペガサスやドラゴンのような空想上の生き物で、実在するわけがない。
手塚治虫だって漫画「火の鳥」を書いたときは実物を見たわけではないでしょう。
宝徳山稲荷大社の神幸祭は、数万本の願いを込めた紅いロウソクが一斉に灯される神事も行われます。
これを知ったあなたは思うはずです。
なるほど、火の鳥の正体は「火の粉」、もしくはロウソクの火による「目の錯覚」だな、と。
昨年の私がまさにソレでした。
渋滞の先で見たモノ
夜10時という遅い時間に出発した私を待ち受けていたのは、山中に伸びた長蛇の渋滞。
宝徳山稲荷大社は山の上にあるため、山道の急坂で何度も発進と停車を繰り返さなければなりません。
オートマ車でもブレーキを踏見続けなければ下がってしまうレベルの急坂がいくつかあります。
神幸祭に行かれる方はお気をつけください。
渋滞にハマること3時間。
ようやく宝徳山稲荷大社に到着しました。
駐車場に車を駐め、まずは願かけの紅ロウソクが灯された場所へ。
到着した時間が遅すぎたのか、大半のロウソクは長さが半分くらいになっていましたが、数万本のロウソクが灯る幽玄な光景を、しばし時を忘れて眺めていました。
奥宮のほうへ歩いていくと、大鳥居の周辺に大勢の人だかりが。
空を見上げては時折「おぉ!!」という歓声をあげています。
「今年は多いみたいだな」
周囲から話し声が聞こえてきます。
「ほら!いったよ!」
まさかの声も聞こえてきました。
そんな声に後押しされて空を仰ぎ見てみれば、
夜の闇にオレンジ色の光が一閃。
え?
そう思った次の瞬間、またしてもオレンジ色の光が視界を横切ります。
……火の鳥、見れました。
夜に手持ちで撮影しているため画質が悪く手ブレしていますが、オレンジ色の何かが飛んでいるのがハッキリ写っています。
周囲の星と比べれば、オレンジ色の線は手ブレによるものではなく、移動しているのだとわかります。
なんの苦労もなく火の鳥らしきものが見れてしまったことに驚愕。
普通、見られるにしても寒空の下、数時間待ってようやく見られるものでは?「火の鳥」ですよ?むしろそうであって欲しい。
けれどそんな私の期待を嘲笑うかのように、火の鳥は何度も頭上に現れ、そのたびに人々は歓声を上げるのでした。
「今度は三匹いったよ!」
編隊飛行の報告まで聞こえてくる始末。
火の鳥とはなんとサービス精神が旺盛な生き物なのか。
二羽同時に飛んでいくのを捉えました……そんな馬鹿な……。
人智を超えた現象を目の当たりにし、論理を愛する私の脳は大混乱。
多くの謎を抱えたまま、はじめての神幸祭を後にました。
火の鳥の正体
火の鳥の正体はいったい何なのか。
私が火の鳥を見たのは、願掛けのロウソクが灯されているロウソク台からは離れた奥宮の大鳥居前。
当初予想していた火の粉や目の錯覚だとは考えにくいです。
次に考えたのは、野性の鳥がロウソクの灯りや神社の照明に照らされたという説。
しかし照明の光に照らされるだけで、あんなにハッキリとオレンジ色を夜の闇に肉眼で捉えられるものなのでしょうか。
撮影した写真を見れば見るほど、照らされているというよりは、発光体、といったほうが自然な気がします。
結局、火の鳥の正体はわからずじまいですが、宝徳山稲荷大社の神幸祭では「火の鳥」とよばれる「何か」が見られることだけは間違いありません。
火の鳥に興味のある方は、来年の神幸祭に参加してご自分の目で確かめてみてはいかがでしょうか。
私も今一度、火の鳥の正体を確かめに行きたいと思っています。