旧齋藤家別邸の紅葉

高層ビルを背景に望む新潟市の住宅街。
ここに風光明媚な景色が隠されていました。

旧齋藤家別邸 国指定名勝

旧齋藤家別邸は、大正時代の豪商「斎藤喜十郎」の別荘です。総敷地面積は1,300坪にも及び、敷地内には贅の限りが尽くされた庭園や建物があります。

旧齋藤家別邸は「国指定名勝」です。国指定名勝。そういわれてもピンときませんよね。

石川県金沢市の「兼六園」をご存知でしょうか。加賀百万石で有名な前田氏の庭園であり、日本3大名園のひとつに数えられる兼六園も国指定名勝です。

そう、旧齋藤家別邸は、国指定名勝としてあの兼六園に肩を並べる場所。そんなところが新潟市の中心にあったという事実に驚きます。

旧齋藤家別邸が高く評価されている理由。それは「庭屋一如(庭園と建物を一体とみなす考え方)」に基づき調和のとられた風光明媚な空間づくりにあります。

敷地内は涼やかな滝の水音が響き渡り、建物からは季節の色に染まる庭園が一望できます。川のせせらぎを聞きながら、移ろう四季の自然を眺める。ゆったりとした静かな時間の流れが、日常で疲弊した心を癒やします。それは疲弊するほど仕事をしない私ですらも癒やされてしまうほどです。

高低差のある立体的な庭は「回遊式庭園」として整備されており、自由に散策できます。園内には、鯉の泳ぐ池泉、風に揺らぐ竹林、滝から泉へと続く川、名工によって作られたであろう石灯籠や橋、そして庭屋一如にもとづき配された茶室や東屋などの建物があります。そう、すべてです。すべてあります。日本人の心に響く「風情」のすべてがこの庭園にはあります。

斎藤家別邸の邸宅部分は、伝統的な建物様式の数寄屋造り。一見しただけでは地味にも見える佇まいです。しかし細部に目を凝らしてみると、欄間や欄干、天井や柱、建具、窓から見える風景にいたるまで、随所に技巧の凝らされた細工や意匠を見つけます。妥協を許さず選びぬかれた本物だけで邸内を彩りたい。そんな家主の飽くなき美への執着が感じられます。

この異常なまでの美意識は、iPhoneやMacで有名なAppleの創業者スティーブ・ジョブズの哲学に通じるものがあります。
革新的な製品で人々の生活を変えたスティーブ・ジョブズと、湊町新潟が日本の要衝であった時代を支えた斎藤喜十郎。
いつの時代も、時代の中心で生きる人たちの世界は独特であり、その世界から生み出されたものに、私たちは感動を覚えるのかもしれません。


旧齋藤家別邸、期待していた以上に素晴らしいところでした。
庭屋一如により完成された見事な景観に心癒やされつつ、新潟が栄華を誇った古き良き時代の面影にふれて知的好奇心が満たされる。大人の休日の過ごし方として「正しさ」を感じる有意義な体験でした。

というのが一般的な感想だと思いますが、私はシャッターを切るのが忙しくて。正直なところ感想はすべて家に帰って写真を見ながらの後付けです。人を癒やす美しい景観は、被写体としても優秀すぎるのが難点。旧齋藤家別邸のおかげで人差し指が筋肉痛になるかと思いました、という優雅にほど遠い筋肉質な賛辞で記事を終える次第です。

旧齋藤家別邸 – The Niigata Saito Villa(公式HP)
旧齋藤家別邸(Googleマップ)