たびたびネット上を騒がしてくれる家入一真さんの著書です。
この本はタイトルから連想し期待するであろう内容と読後感がまったく異なります。
本書の主軸はタイトルの「社長になれた」部分ではなく「こんな僕でも」の部分にあります。
大半が家入一真さんの半生を振り返って書かれているものなので、起業家としての何たるかを本書に求められると肩透かしを食らってしまうのではないでしょうか。
しかし本書、こういってはなんですが特別にものすごいストーリーというわけではないのに引きこまれます。
昨日読んだ堀江貴文さんのゼロの感想に「普通ではない人、自分とは違う人」という印象を受けたと書きましたが、こちらは真逆でものすごく親近感がもてるのです。
家入さんの身に起こった現実は本人の苦痛を想像することは難しいですが、誰もが身近に見たり聞いたりしたことがある程度のもので、極端に壮絶ないじめや家庭環境や出来事があったということではありません。我々が想像できる範囲に物事が収まっている感じがするのです。
もはや本として出版する内容としてはいささか読者に物足りなさを感じさせてしまうのではないかと思わずにはいられないほどなのに、それがなんとも心地よいというかなんというか。読書をしてこんな気持ちになったのは初めてです。
しばらく合わなかった友達の話を聞いたような読後感です。
最近は読書の感想を本ブログに書くときは気になった部分を行動に変換してメモするようにしていましたが、本書に関しては「そういうことではない」という感じではないのです。
本書においてもし一文抜き出すとすると、最後の最後に家入さんが自らの人生を塊魂というゲームに例えて述べている部分で、
ときには、弾き飛ばされた先が溝の中だったりして、しばらくの間、立ち往生を余儀なくされたこともあった。長く暗い溝の中で、僕の塊はただ、もがいて、もがいて、もがいて・・・やっと脱出に成功、と思ったらまたすぐに転がって、またすぐに有無を言わさず方向転換。
この一文から読み取れるように、語弊はあるかもしれませんが、自らの意思が沿わなくとも流れに身をまかせてきたら知らずうまくいった、そんな家入さんの押し付けがましくない人生観がどこか気持ちよかったです。
そこに無理がないことが本当に素晴らしいことに思えるんですね。
どんなに人を幸せにするためにビジネスを行うことが立派なことかをうたうモノは多いですし、私自身もどこか自己犠牲的で利他的にビジネスを行わねばならないと半ば強迫的に感じてきたところはありましたが、本書を読むともっと簡単でもっと自然で良いんだ、といわれたような気がします。
その点においては最近読んだ本の中では一番、言ってほしいことを言ってくれた本です。問題解決にはなりませんが(笑)。
自己啓発本やビジネス書として正面から読むと期待はずれかもしれませんが、私には自分の意に沿わないことでもなんでもしてビジネスをうまくいかせようとする姿勢よりも、自らにとってのベストの在り方を追求し、悪くいえば運まかせともいえなくもない家入さんのスタンスのほうがビジネスマンという姿の本質であるべきと思える部分もありました。
まずは自分の衣食足りてこそ他人を喜ばさせられる、そんな言葉がぴったりな気がした本でした。