SHUREのフラグシップイヤホンSHURE SE846CL-Aを購入してみましたが・・・数時間でフリマアプリに出品するという悲しい結果に至りました(涙)。
購入して到着開封後、数時間でドナドナした例としてはBOSEのワイヤレススピーカーがあったのですが、今回は10万円超えという金額も金額だけにダメージはかなりデカかったです;;
悲しい結論ありきのレビューとなってしまいますが、これから買われる方は参考にしてみてください。
外箱に光るSE846のロゴ。
本物のサブウーハーのレスポンスを提供する4基の高精度MicoDriverが、豊かな低域と明瞭で伸びのある広域を実現
この文言に嘘はなく、本品の低域はBA型とは思えぬ素晴らしい低音を鳴らしてくれます。
ダイナミック型とはまた少し違う質の低音ですが個人的に低音の質感はSE846のほうが好みでした。
外箱側面に書かれた付属品の解説など。
右中段に描かれた「交換式ノズルインサート」こそが本品の最大の魅力で、後述しますがこの機能があるおかげで本品は3様の音を奏でるイヤホンとなるのです。
外箱底面には仕様とSHURE社の紹介。
これまでSHUREというと「SM58」という世界中のボーカリストに愛されたマイクのほうが印象にあり「入力装置のメーカー」といったイメージでしたが、今回はじめて出力側を体験してその実力を知ることになりました。
箱を開けると製品側にはSHUREのロゴ入りクロス、フタ側にはSE846の構造を示した図と紙資料が収められていました。
画像の「B」の部分が肝の交換ノズルアセンブリーなのですがこれを外す時はかなりの力が必要で壊してしまわないかドキドキものでした。
値段が値段だけにその辺には神経を使わざるを得ず「気楽なイヤホン」とは言い難いところがありましたね。
そしてついに本体とご対面!
色がクリスタルクリアーしか用意されていないのは「このサイズにこの音質を実現した技術力を見てくれ!」というSHUREからのメッセージなのでしょう。
・・・ただ、実はその技術屋魂こそが今回の私のレビューを悲しいものにした原因といなくもないのです・・・。
箱の内容物一覧。
本体は袋などに包まれず裸のままで梱包されているのは良いのか悪いのか。
付属品ケースのポーチを開いたところ。
このポーチがこちらの3000円しないヘッドセットとロゴ部分を除きまったく一緒だったんですよね(苦笑)。
付属品ケースぐらいどうでも良いじゃん!と言いたいところですが三千円と十万円の価格差はその辺を許容できるものではないと個人的には思いますけどね。
付属品の一覧。
ボリュームコントローラーや変換プラグ、そしてイヤーピースはそれぞれ質感の良い高品質なものがバリエーション豊かに封入されていました。
取扱説明書には耳の裏からコードをひっぱる有名な通称「SHUREがけ」のやり方について解説されていたり、イヤパッドなど交換部品の交換の仕方について書かれているのでよく読んでから交換作業をするようにしましょう。
本体のケーブルを外したところ。
こちらはそんなに力を加えなくてもスポッと抜けるのでリケーブルの際は簡単で良いですね。
そしてこれが音質を三様に変化させることのできる交換ノズル。
白が高音域を強調する「ブライド」、青がノーマル状態の「バランス」、黒が温かみのある音に変化させてくれる「ウォーム」。
それぞれ白のブライトが+2.5db、青のバランスがニュートラル、黒のウォームが-2.5dbだそうです。
説明書のノズルインサート交換の解説部分。
数回やると慣れるので簡単に交換できるようになりますが、一番最初はおっかなびっくりの交換でかなり緊張しました。
交換の手順としては、まず本体からケーブルを外した後イヤーピースを外します。
続いて付属品のノズルを収納する筒とチェーンで繋がったインサート交換用のアタッチメントを使用してネジを回してフタを外します。
するとノズルがこのような感じ(青色の部分)で収納されているのでコレを交換します。
画像は白の「ブライト」にノズルインサートを変更したところ。
前述しましたが慣れてしまえば簡単に変更できるようになるので気軽に違う音質で愉しむことができます。
本品の私的レビュー
※最初にお断りしておきますがレビュー環境としては普段使いを想定していたのでMacに並程度のオーディオインターフェイスを介して接続して使用した上での感想です。
凛として洗練された音空間
本品をはじめて耳に入れて音楽を流したときの衝撃はすごかったです。
「これまで聴こえなかった音が聴こえる」という体験は並以上の出力デバイスを購入すればありきたりな感想ですがSE846のソレはまったく異質です。
「聴こえなかった音が聴こえる」というよりは「マスタリングの違いがわかる」と評したほうが正確なのではないかと思います。
付属の「ブライト」のノズルインサートを使用すると更に高音域がパーッと開けた音に変わり、凛として洗練された音空間を形成してくれます。
さすがにヘッドホンのようなハウジングサイズがモノをいう領域ではそれらに見劣りする部分はあるものの、それを補って余るほどの素晴らしい明瞭感で初撃のインパクトとしては過去に類をみない体験でした。
少しややこしいかもしれませんが、このイヤホンは「イヤホンの中で比較して」ではなく、スピーカーやヘッドホンなどの他出力装置と比較して素晴らしいのです。
しかし、それは「高解像度」という一点においての評価であり、誤解を覚悟でいうのであればソレがすべてでありソレだけの非常にピーキーなイヤホンだと私は感じました。
買う前のレビューでこの高解像度感などから本品を「ピュアオーディオ」と評しているのを見かけましたが、私には拡大解釈が過ぎるように思えました。
マスタリングエンジニアの影
前述のようにこのイヤホンは「マスタリングの違いがわかる」と言って過言ではないレベルなのですが、それ故に「音源」に求められる質が半端ではないのです。
さらにいえばハイレベルな音源を用意できたとしてそれがアナタ好みの音バランスで調整されている可能性はどれくらいでしょう?限りなく低いと言わざるをえませんよね。
例えるのであれば、ある一般的編成のロックバンド(ボーカル、ギター、ベース、ドラム)の音源があるとして、ボーカル、ギター、ベース、ドラム、”マスタリングエンジニア”、という編成になってしまうのです。
つまりどんな音源にもマスタリングエンジニアの影を感じてしまうんですね。
おそらくインナーイヤー型なので遮音性も抜群のイヤホンだからこそここまで音分離の良い状態で「聴こえてしまう」のでしょう。
まったく同質の音をスピーカーやヘッドホンから出力してもそれらの場合はリスニング環境やハウジング内での影響である程度の統一感を与えられて聴こえてきますが、インナーイヤー型のイヤホンではほぼダイレクトに鼓膜使わってくるので良くいえば「音分離が良い」、悪くいえば「音がバラバラ」といった事態になってしまっているのです。
こんな状況ですから仕事をしながらSE846を使用していると音が気になって気になって気が散って仕方がないのです。
音源の「高品質」を伝えることができるこのイヤホンは逆にいえば音源の「低品質」もしっかり伝えてしまうのです。
仕事をしながら流す曲にはYouTubeの作業用のようなものをチョイスすることがありますが、本イヤホンでは曲そのものより音源の低品質感が目立ってしまい満足にきけません。
「このイヤホンはそんな音源を聴くためのものではない!」とお叱りを受けそうですがはたしてイヤホンのあるべき姿としてこの状況はいかがなものかと・・・。
「イヤホン」に求められるモノ
私的にはやはりイヤホンは普段使いに対応した「気楽・気軽さ」のようなものを逸脱しない範囲での調整が必要だと思うのです。
音が良いにこしたことはないのですが、SE846はSHUREの技術者が数値スペック上の追求を行った結果の作品という「スペック的に素晴らしいイヤホン」であり、「人がイヤホンとして使用するイヤホン」という部分が考慮されていない気がします。
SE846は「音を聞く」のに適したイヤホンであり「曲を聴く」のに適してはいないというのが私の感想です。
確かにこのサイズにあれだけの音質を奏でさせるその技術者魂は素晴らしいとしかいいようがありませんし賞賛もしますが、それは「作品」として素晴らしいのであり「商品」としては疑問を感じざるを得ません。
SE846は例えるならF1で、とてもではないが一般道を走れるものではないということです。
この使用感はもちろん万人が同じように感じるものではないでしょうし、当然のことながら機器や音源の影響も多分にあります。
私は多少のミキシングなどの経験があるので特にその辺が気になってしまうということもあるかもしれません。
もしあえてこのイヤホンをオススメできる人をあげるのであれば、何らかの音源調整作業に関わる人か、あえてイヤホンでの高音質を求めたい人、ということになると思います。
非常にニッチな範囲ではありますが以上に該当する方には重宝されるイヤホンになるのではないでしょうか。
これからご購入をお考えの方はぜひこの辺の事情を考慮して「それなりの覚悟」をもって購入されることをオススメします。